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浦和地方裁判所 昭和44年(ワ)130号 判決 1969年9月16日

原告

萩原シマ

ほか三名

被告

安全運送有限会社

主文

原告らの請求は何れもこれを棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は、原告萩原シマに対し金一、七五七、九一〇円、原告萩原秀夫、同萩原正夫、同松原みや子に対し各金六〇五、二七三円及び右各金員に対する昭和四三年一〇月七日以降それぞれ完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として

一、(事故の発生)

被告会社の使用人訴外増田七郎(以下増田という)は、昭和四三年一〇月六日午前八時一〇分頃、被告会社所有の事業用大型貨物自動車(以下被告車という)を被告会社の営む運送業務の執行として運転中、埼玉県上尾市愛宕二丁目二〇番一二号地先において、自車と同方向に向つて自転車にて走行中の萩原慶次郎(以下慶次郎という)に右車を接触させ、同人に重傷を負わせた結果、昭和四三年一〇月二一日死に至らせたものである。

二、(責任)

したがつて、被告会社は前記車の保有者として自動車損害賠償保障法第三条により当然右事故によつて生じた損害を賠償すべき義務がある。

三、(損害額)

本件事故により原告らが蒙つた損害は次のとおりである。

(一)  逸失利益

亡慶次郎は本件事故当時六一歳で、川口市金山町九四番地所在訴外富田塗装工業有限会社の塗装工として同社に勤務し年収金六九二、〇〇〇円(月額金五一、〇〇〇円と年二回分の賞与計金八〇、〇〇〇円)を得ており、その生活費は消費単位表による右収入の三・九分の一となる(同人の家族は事故当時本人と妻たる原告シマ、実子たる原告秀夫(三二歳)同正夫(二一歳)の四名である)から、この分を右年収額から控除した残金五一四、五六五円(円未満切捨)の実収入があつたわけである。しかも同人はいたつて健康に恵まれておつたのであるから就労可能年数表によるも少くとも七年間はなお勤務し得られた筈(右勤務先会社には停年制の定めはなく、社長よりいつまでも働いてくれるよういわれていた)である。

したがつて右七年間の実収入から更にホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除すると、亡慶次郎は本件事故によつて金三、〇二三、七三〇円(円未満切捨)の得べかりし利益を失つたことになる。しかるところ、本件事故により自動車損害賠償保障法による保険金三、〇〇〇、〇〇〇円の支払を受けたので、右逸失利益金より控除した残金二三、七三〇円の損害賠償請求権を、原告シマは亡慶次郎の妻として、原告秀夫、同正夫、同みや子はその実子として法定の相続分にしたがつて承継取得したわけである。

よつて被告会社に対し、原告シマは右金額の三分の一にあたる金七、九一〇円、原告秀夫、同正夫、同みや子は各その九分の二にあたる金五、二七三円(円未満切捨)ずつの損害賠償請求権を有するに至つた。

(二)  慰藉料

原告らは亡慶次郎と前述のような身分関係を有するものであるから、妻として、また子としてそれぞれ同人の死亡により受けた精神的苦痛は甚大である。したがつて右慰藉料の額は妻たる原告シマにおいて金一、五〇〇、〇〇〇円、子たる他の原告において各金六〇〇、〇〇〇円をもつて相当と考える。

(三)  葬儀費用等として金二五〇、〇〇〇円の支払を余儀なくされた。

四、(結論)

よつて被告会社に対し、原告シマは前項(一)(二)(三)記載の同原告の該当金額の合計金一、七五七、九一〇円、原告秀夫、同正夫、同みや子は同項(一)(二)記載の同原告らの該当金額の各合計金六〇五、二七三円及び右各金員に対する本件事故発生の日の翌日である昭和四三年一〇月七日以降それぞれ完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と述べた。〔証拠関係略〕

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として

一、請求原因第一項中、被告会社の使用人訴外増田が原告主張の日時頃その主張の自動車を運転して主張の地点にあつたこと、訴外慶次郎がその主張の日に死亡したことは認めるが、その余は否認する。訴外慶次郎は、訴外増田運転の自動車に接触されて傷害を受け、死亡したのではない。

二、同第二項は争う。

三、同第三項は不知。

四、同第四項は争う。

と述べた。〔証拠関係略〕

理由

一、(訴外萩原慶次郎の受傷及び死亡)

被告会社の使用人訴外増田が昭和四三年一〇月六日午前八時一〇分頃被告車を運転して埼玉県上尾市愛宕二丁目二〇番一二号地先にさしかかつたことは当事者間に争いなく、しかして〔証拠略〕によると同日時場所において訴外慶次郎が自転車にて右訴外増田と同一方向を走行中道路に転倒し、右慶次郎が頭部打撲、頭蓋骨陥没骨折、頭蓋内出血等の重傷を負つた結果、昭和四三年一〇月二一日死亡したことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

二、(責任)

ところで訴外増田が被告車を自転車にて走行中の訴外慶次郎に接触させた結果慶次郎に重傷を負わせたとの原告らの主張事実は、本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。(〔証拠略〕を総合すると訴外慶次郎、同増田は何れも大宮方面から熊谷方面へ向け運転して前記日時埼玉県上尾市愛宕二丁目二〇番一二号地先一七号国道バイパス交差点にさしかかり停止信号機に従い停止し、信号が青に変じると共に運転走行を開始し、慶次郎が先行し右交差点を通過して間もなく慶次郎は進行方向アスファルト道路左端を進行した際、被告車がその右側約一・五メートルの間隔を置いて追越しにかかり、被告車の車体中央附近と自転車とが並んだ頃慶次郎は用心し過ぎて道路左端の排水溝に寄り過ぎた結果自転車が右排水溝の中に落ち込み、その際慶次郎は横に転倒しアスファルトに直接頭を打ちつけたほか身体をも打ちつけたが、結局増田は自ら被告車を自転車にて走行中の慶次郎に接触させなかつたことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。)

以上のとおり訴外増田の被告車運転行為と訴外慶次郎の傷害ないし死亡との間には因果関係は認められず、したがつて被告会社は自動車損害賠償保障法第三条の「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命または身体を害したときは、……」なる自動車損害賠償責任要件に該当しないものというべきである。

三、(結論)

よつて原告らの本訴請求はその余の判断をなすまでもなく理由がないから何れもこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松澤二郎)

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